膿疱、落屑、紅斑を主症状とする慢性皮膚疾患のひとつである掌蹠膿疱症について記載します。
1)掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)とは
主として手掌(しゅしょう=てのひら)や足底に、無菌性(細菌やかびなどが存在しないタイプ)の多数の膿疱(のうほう=黄色の液体を容れる小さな袋)が出没を繰り返すことを特徴とする疾患です。比較的長い期間にわたって症状を繰り返し、慢性に経過する皮膚疾患のひとつです。無菌性ですので、皮疹が拡大する時に次々と感染して拡大しているわけではありませんし、他人にももちろん感染しません。
2)掌蹠膿疱症の症状
手掌ではその中央や母指球(ぼしきゅう=親指の根元のふくらみ)や小指球(しょうしきゅう=小指の根元のふくらみ)などに、足底では土踏まずや踵や足縁部などに、比較的境界がはっきりとした落屑(らくせつ=かさつき)を持った紅斑を認め、その中に直径1〜5mm程度までの膿疱が多数認められるのが特徴です。爪の周りの指の皮膚や爪の下にも膿疱が出現することがあるので、爪の下に膿疱が透けて見えたり、爪が黄白色に濁ったり変形したりすることがあります。膿疱部を生検すると、病理組織学的に表皮の中に白血球の仲間である好中球が多数集まって膿疱を形成しているのが確認できます。
10〜30%程度の症例に骨関節炎を合併します。胸骨と肋骨の間の関節、胸骨と鎖骨の間の関節などに多く認められ、胸肋鎖骨間骨化症といわれています。それらの関節では骨増殖性あるいは骨破壊性の炎症が起き、疼痛や腫張(腫れること)を示します。
一般には他には全身症状を伴わない疾患ですが、糖尿病や甲状腺疾患を合併する例があります。
3)掌蹠膿疱症の原因
原因が不明の症例が多いのですが、統計的に約30%程度の症例で慢性化膿性病巣(まんせいかのうせいびょうそう=細菌感染が慢性に存在する部位)が疾患の悪化の原因になっています。そのような方達では慢性扁桃腺炎、歯槽膿漏(しそうのうろう=学名では歯周病ししゅうびょう)、蓄膿(ちくのう=学名では副鼻腔炎ふくびくうえん)、中耳炎、胆嚢炎などの症状の悪化と掌蹠膿疱症の悪化が同調したり、そのような疾患の発症と前後して掌蹠膿疱症が発症したりすることがあります。また、金属アレルギーの存在が掌蹠膿疱症の発生の原因になったり、悪化の原因になったりするとの報告があります。歯科金属に接触アレルギーを有する人に掌蹠膿疱症が発生していた例で、歯科金属を取り除いたのちに掌蹠膿疱症が改善あるいは消失したとの報告があります。しかし、その一方で、種々の調査の結果、確かな関連性が確定できなかったという報告もあります。そのため現在のところ、掌蹠膿疱症への金属アレルギーの関与については、未知の部分が多いといわざるをえない状況です。
喫煙と掌蹠膿疱症との強い関連が疑われています。女性の掌蹠膿疱症の患者さんの圧倒的多数は喫煙者です。たばこの中のニコチンが掌蹠膿疱症を悪化させる機序が、最近、解明されてきています。
4)掌蹠膿疱症の治療
@まず、治療の一環として禁煙あるいは減煙をお勧めします。(といってもなかなかできない方が多いようですが。)
A次に、原因あるいは悪化因子となりうる病巣感染があれば、そちらの治療をします。慢性扁桃腺炎や歯周病があれば、それらの治療を行うことで掌蹠膿疱症が鎮静化することがかなりの程度に期待できます。扁桃腺は無症状のことも多いため、見逃されることも多いので、耳鼻科のドクターへのコンサルテーションが望まれます。歯性病巣の検出にはX線検査が必要なので、これも歯科のドクターへのコンサルテーションが必要です。
B局所療法(外用治療)には副腎皮質ステロイド外用薬や活性化ビタミンD3外用薬があります。両者ともに免疫抑制作用、抗炎症作用があります。それらを単独あるいは併用することで、副作用を少なめに、効果を大きめに期待できるようになります。月曜日から金曜日まではビタミンD3外用薬を使用し、土曜日と日曜日は副腎皮質ステロイド外用薬を使用するというような交代療法をすることも、効果の点でめりはりをつけ、患者さんの治療へのモチベーションを上げる意味などで、推奨されています。一方、高いランクの副腎皮質ステロイド外用薬を使い過ぎることにより、皮膚が薄くなったり痛みを感じたりする時には、低いランクの副腎皮質ステロイド外用薬に切り替えたり、保湿剤に切り替えたりすることで対処します。
掌蹠膿疱症はかなり炎症があるため痒いことが多く、掻きこわしたり、落屑を無理にむしることで皮疹を悪化させていることが多いことが分かっています。そのため、上記の外用薬で局所の炎症を抑えたり、皮膚を保護したりすることが、皮疹の軽快にかなり役立ちます。
C全身療法(内服治療)には、チガソンというビタミンAの誘導体があります。チガソンは膿疱の改善にかなり威力を発揮します。しかし、掌蹠膿疱症以外の皮膚(口唇部や鼻の中など)のはがれを起こしたり、時には頭痛を起こしたり、多くはありませんが脱毛を起こすこともあります。また、催奇形性の問題から生殖年齢の患者さんには(男女とも)不適当な内服薬です。ドクターからよく説明を聞いてから開始しなければなりません。
ビオチン(ビタミンBの仲間のビタミンH)とビタミンCと整腸剤の3剤を内服するビオチン療法が選択されることがあります。チガソンのような副作用が無い点が長所ですが、有効率はあまり高くありません。
Dその他の治療法として紫外線照射療法があります。40%程度の患者さんに有効とのデータが出ていますが、1週間に2〜3回から開始して、効果が現れてからも維持療法として2週間に1度程度照射を繰り返し、ある一定の効果があってから治療を休止します。
5)最後に
掌蹠膿疱症の治療で大切なことは、禁煙あるいは減煙を勧めることと言われています。掌蹠膿疱症の患者さんで喫煙しておられる方はぜひ禁煙してみてください。