皮膚科を受診するきっかけの一つとして「皮膚のかゆみ」があります。かゆみは、「かきたいという欲望を起こさせる不快な感覚」と定義されています。じんましん、アトピー性皮膚炎、接触性皮膚炎、虫刺されなどは、時としてとても強いかゆみを生じます。これらの皮膚疾患によるかゆみは、末梢性のかゆみと呼ばれ、表皮と真皮の境界部のかゆみ受容体(レセプター)にかゆみ刺激が作用して神経が興奮します。この信号が、求心性(脳に向かう)C線維により大脳皮質まで伝達され、かゆみが認識されます。
かゆみ刺激の中で最も重要で強力なものはヒスタミンです。これはC線維の末梢部のヒスタミン1(H1)レセプターに結合し、神経を興奮させます。このかゆみには抗ヒスタミン薬が有効です。じんましんには第一選択薬として、アトピー性皮膚炎には補助的治療薬として、治療ガイドラインで推奨されています。
皮膚にほとんど発疹がないのにかゆみを感じることもあります。これは「皮膚そう痒(よう)症」と呼ばれ、その一部は甲状腺機能異常症、肝硬変、慢性腎不全、ホジキン病や内臓がんなどの悪性腫瘍などが原因で発症します。これは中枢性のかゆみと呼ばれています。中枢性のかゆみをおこす物質はオピオイドペプチド(モルヒネ様物質)であるため、このかゆみには抗ヒスタミン薬はほとんど効果を示しません。
乾燥肌(ドライスキン)もかゆみを生じる大きな原因です。高齢者やアトピー性皮膚炎患者にみられるドライスキンでは、求心性C線維の末端が表皮の上方や角層直下にまで侵入していることが最近の研究で分かっています。このため、皮膚へのわずかの刺激が直接神経を刺激して、その信号が大脳皮質まで伝達されてかゆみを感じてしまいます。この場合には保湿剤によるスキンケアでドライスキンを手当することがかゆみの解消の助けになります。