顔や手の甲など、日光に当たることが多い部位に、子供の時にはなかった茶色の斑点がしだいに出てきます。これは一般には「シミ」と呼ばれています。
シミが出現する主な原因は、長期間にわたって反復性に、回数多く日光に当たることです。そのため、学名では日光性黒子(にっこうせいこくし)と呼ばれています。40歳代では人口の約6割の人に、50歳代では約8割の人に、80歳以上でほぼ全員に出現することが統計学的に知られています。日本の地域でも、九州のように日光の強い地域では20歳代から出現することも稀ではありません。一方、北海道では30歳を超えてから認められることが多いようです。
年齢を重ねるほど出現率が高まるので、老人性黒子(ろうじんせいこくし)とも呼ばれてます。しかし、老人の全身の皮膚をチェックした場合、もっとも日光に当たりにくい腹部や殿部の皮膚にはこのタイプのシミがほとんどないのに、顔にはシミが多発しています。このことから、シミの発生には日光が深く関わっていることがおわかりいただけると思います。
理由はよく分かっていませんが、男女別でみると、男性よりも女性にやや多く認められます。形や色、出現するタイミングなどから、小斑型、大斑型、白斑黒皮型、特殊型などに分類されています。小斑型や大斑型が顔や手の甲によく見られるものです。特殊型の中では、海水浴などで急に背中に強い日光を浴びた直後にハナビラ(花弁)のような形をした色素斑が一気にたくさん出現する光線性花弁状色素斑が有名です。
シミの部分の病理組織像はどのようになっているでしょうか。通常、皮膚はやや厚くなっています。皮膚が厚くなる理由は基底細胞という表皮の一番下の細胞が下に向かって増殖しているためです。また、角層(あかの層)もやや増えています。皮膚が茶色っぽくなる原因であるメラニンという色素が、基底細胞部分やその上方の表皮細胞の部分で増えています。しかしその一方で、メラニン色素を生む細胞であるメラノサイト(色素細胞)には、形態的には大きな異常は認められません。表皮をささえる線維の層である真皮部分では、日光の影響で弾力線維が変性する光線性弾性線維症という状態が生じています。
これらのことから、日光性黒子は、色素細胞の異常によって生じる病変というより、表皮角化細胞の変化が主体でおこる病変と言われています。変化した表皮角化細胞からは、色素細胞を盛んに働かせるための種々の生理活性物質(サイトカイン)の分泌が多くなっていることが細胞レベルで観察されています。
日光性黒子(シミ)によく似ている疾患には、脂漏性角化症(いわゆる老人イボ)、日光角化症(皮膚の早期癌あるいは前癌症)、悪性黒子(メラノーマの早期病変)、ボーエン病(皮膚の早期癌の一種)、基底細胞癌(転移しない黒いタイプの皮膚癌の一種)などの腫瘍があります。また良性の色素を認める疾患の中にも、雀卵斑(いわゆるソバカス)や肝斑(女性に多いホルモンの影響を受けやすいタイプのシミ)はよく似た色調の斑点を形成します。多くの場合、診断は容易ですが、上記の種々の疾患との鑑別にはダーモスコピーという拡大鏡での検査が有効です。皮膚に押し当てるだけで、痛みなどを伴わない検査です。
以前は日光性のシミには有効な治療手段がありませんでしたが、最近では色々な治療が試みられています。そのうちのいくつかは、かなり有効です。シミを取り除く治療方法として、最も推奨されている方法のひとつがQスイッチルビーレーザーです。(「皮膚疾患について」の「Qスイッチルビーレーザーによる治療について」を参照してください。)そのほか、各種の美白剤もかなりシミを薄くすることができるようになっています。当院ではハイドロキノン(院内製剤)やトラネキサム酸と4MSK(4-メトキシサリチル酸カリウム塩)が配合された資生堂のナビジョンシリーズの「TAホワイトエッセンス」などを推奨しています。
治療も大切ですが、新しいシミを作らないよう、日常の注意も必要です。遮光(しゃこう=日光を避ける)は最も大事です。むやみに直射日光に当たらないために、午前10時から午後2時までの、最も日光照射の強い日中の外出を避ける、外出時には帽子、日傘などを利用し、きっちりと強い効果のあるサンスクリーン(日焼け止め)をつける、などの心がけが必要です。