カビの感染による皮膚症(皮膚真菌症)について、図説を交えながら解説します。
真菌(しんきん=いわゆるカビ)がヒトや動物の体の障壁を超えて定着することに起因する皮膚の感染症を皮膚真菌症と言います。感染の原因をつくる真菌とは、ヒトを含む動物や種々の植物と同じく、真核生物の仲間です(図1)。
真菌が起こす最も知名度の高い疾患が足の水虫(足白癬)です。これは皮膚の代表的な真菌症のひとつで、原因は白癬(=皮膚糸状菌)という真菌です。皮膚の真菌症で皮膚科の外来で日常的に診察しているものには、カンジダという真菌による皮膚カンジダ症と、マラッセチア属の真菌による癜風(でんぷう)があります(図2)。
図3と図4に手や顔の白癬の部のふけの顕微鏡写真を掲載します。ふけを採取して苛性ソーダ液に浸すと、ふけの細胞が徐々に軟らかくなって、その間にいる真菌が見えやすくなります。
真菌は種々の経路を介して私達の皮膚に感染症を起こします。私達の粘膜や皮膚にはごく普通にカンジダやマラッセチア属の真菌が住んでいます。これらが病原性を発揮して病気を形成した時、皮膚カンジダ症や癜風などの真菌症となります。また、白癬菌で汚染されたスリッパや絨毯から足に白癬が感染して足白癬を起こしたり、動物から白癬菌をうつされて感染することもあります(図5)。
ヒト皮膚に真菌症を起こす真菌には、感染しても激しい炎症を起こすことが少なく、慢性の経過を取ることが多い、好ヒト性といわれる真菌属と、感染した際に異物として認識され易く、比較的激しい炎症を引き起こすけれども感染が慢性化しにくい、好獣性の真菌属があります(図6)。そのため、真菌に感染したといっても、皮膚での反応がそれぞれ異なるわけです。
真菌がヒトの皮膚に接触しても必ずしも感染が成立するわけではありません。解剖学的バリア(防波堤)といわれる、皮膚の最外層に位置する角層が破壊された際に感染し易くなります。角層が破壊される時というのは、入浴後や運動後で皮膚が湿潤(濡れている状態)している時、運動などで擦れたりして小さな傷がついている時などです。ですから、スポーツをして入浴した足には白癬の感染がおき易いといわれています。また、生理学的バリアである、私達の体の免疫機能が低下した時にも感染し易くなります。免疫不全症の方や高齢者の方、がん治療などで白血球が低下した方などでは免疫機能が低下しますので、このような時は要注意です(図7)。
皮膚の外側である角層に真菌が付着すると、角層の成分であるケラチンという蛋白を溶かす酵素であるケラチナーゼなどが働いて、角層に穴をあけます。この穴を通って真菌は角層内へ侵入してきます。侵入した真菌はケラチンほかの物質を栄養にして増殖し、感染が成立します(図8)。
私達ヒトの体は、真菌と戦う種々の機能を持っています。抗菌作用を持つデフェンシン、ラクトフェリン、リゾチームなどが働いて、真菌の発育や活動を抑制します。また、免疫担当細胞である好中球やマクロファージによる殺菌や貪食作用や、リンパ球による免疫反応も動員されます(図9)。
治療は抗真菌剤の外用や内服によって行います。治療の前には皮膚や爪などに真菌が感染しているかどうか、顕微鏡検査をします。足の水虫(白癬)と思っても、異汗性湿疹(いかんせいしっしん)や掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)などの、白癬とは全く異なる疾患であることも多く、その際は抗真菌剤の外用は無効であるのみならず、それらの疾患がかえって悪化することもあります。皮膚科専門医による診察と治療を受けることをお勧めします。