症状、予防対策についての解説です。
1)乾癬とは
乾癬は炎症性角化症といわれる疾患の一種です。諸外国でも日本でもかなりの数の患者さんが報告されています。日本での頻度は人口のおよそ0.1%くらいだろうと言われています。一般的な皮膚科の診療所でもかなり多くの患者さんの治療をしています。原因はまだはっきり分かってはいませんが、遺伝的な要因が部分的にその発症に関与していると考えられています。乾癬がひとつの家系のなかに多発して認められたり、双生児(ふたご)の両者に発症したりするからです。しかし、一卵性双生児の両者に発症する率は70%程度との調査報告があります。同じ遺伝子を持っていても発症する人としない人がいるわけです。つまり乾癬が発症してしまうかどうかには環境の因子が関与していることになります。かぜや扁桃腺炎などの感染症に罹った後に乾癬が発症することが時折経験されています。またごく普通の高血圧の内服剤や精神的・肉体的ストレスで乾癬が誘発されたり悪化したりすることもしられています。さらに妊娠や外傷などで乾癬が悪化したり膿疱(白血球が集まった黄色い点状の皮疹で無菌性膿疱と言われるもの)ができたりすることがしられています。
2)乾癬の皮疹
乾癬の典型的な皮疹は、銀白色の鱗屑(りんせつ=ふけのことです)をもつはっきりと境界された紅斑(こうはん)です。頭の皮膚から足底の皮膚まで全身の様々な部位に発生します。小さな丘疹状のものは初発疹(しょはつしん)と呼ばれています。痒みが全くない患者さんもいますが、統計的に約50%の患者さんが痒みを感じています。発疹が出やすい部位は肘、膝、腰まわりなどです。これは乾癬には機械的刺激のせいで発疹が出やすいケブネル現象という特徴があるためで、擦れがおきやすいそれらの部位に発疹ができやすいわけです。頭皮も乾癬の局面と言われる発疹が出やすい部位ですが、毛髪が伸びてゆく時、毛が皮膚をこする刺激のせいと考えられています。爪も皮膚の一部ですので、手足の爪に変形、点状の陥凹(へこみ)、剥離(はくり)などがおきることがあります。
3)皮疹以外の症状
幸い、通常、内臓を侵すことはありません。しかし、関節炎を伴うことがあります。これはリウマチ性関節炎とは異なるタイプの関節炎で、乾癬患者さん全体の約1〜2%に発症すると言われています。手足のゆびの末梢の関節や脊椎関節や仙腸関節などの大関節が侵されることがあります。関節炎の患者さんはしばしば爪の変形を伴っています。皮疹と関節炎の発症時期は同時のこともありますし、皮膚の症状が出てから関節の症状が出るまで数年間程度かかることもあります。
4)乾癬の分類
前記の関節炎を伴う乾癬を関節症性乾癬と言います。皮膚のみに局面を繰り返す通常のタイプは尋常性乾癬と言われています。これらのタイプのほかに、乾癬性紅皮症(かんせんせいこうひしょう、皮疹が全身におよんでびまん性の潮紅とふけを伴うタイプ)、滴状乾癬(てきじょうかんせん、水滴をばらまいたような小さな皮疹が全身に出るタイプで子供や若い人に多いタイプ)、膿疱性乾癬(のうほうせいかんせん、乾癬の紅斑の上に無菌性膿疱を伴うタイプ)などがあります。この中で尋常性乾癬のタイプが90%を占めますので、皮膚科の外来患者さんのほとんどがこのタイプです。
5)乾癬の治療
乾癬が上手くコントロールされるために最も大事な治療の基本は、患者さんに乾癬という疾患とその治療について医師がよく説明し、分かっていただくことです。乾癬は炎症がありふけが出る、慢性に繰り返すことの多い疾患です。そのため患者さんのほとんどが疾患を持っていることで社会的生活に困難を感じているという統計があります。しかし決してうつることはありませんし、生命の危険を伴うこともほとんどありません。また、上手くコントロールできれば、ほとんど皮疹がない状態で生活することも可能です。滴状乾癬は治ってしまうことも多いです。
次に生活の中に乾癬に良いことをたくさん取り入れるようにすることです。日光(紫外線)は多くの乾癬の患者さんに対して良い効果をおよぼします。当たり過ぎはケブネル現象のもとになることがありますし、稀に乾癬が悪化してしまう患者さんがいるので注意が必要ですが、適度の日光浴は乾癬を上手くコントロールするのに役立つと言われています。患者さんの顔に発疹があまり出ず、冬季よりも夏季の方が皮疹が少ない傾向にあるのは、紫外線の影響によると考えられています。またストレスで悪化することがある疾患ですから、色々なストレスをためず、治療についての質問などは皮膚科への受診時に医師に納得がゆくまで聞かれることをお勧めします。
その上で基本的な治療法として外用療法、内服療法、光線療法、生物学的製剤による治療があります。通常はまず外用剤治療から始めます。外用剤には副腎皮質ステロイド外用剤、活性型ビタミンD3外用剤、保湿剤、角質融解剤などがあります。患者さんの皮疹の性質、ひろがり、程度などによってそれらを組み合わせ、コントロールが最も上手くゆく使用方法を探してゆきます。
内服療法は内服剤(のみ薬)としてビタミンA誘導体であるレチノイドや、免疫系に作用するシクロスポリンやメトトレキサートなどを用います。これらは副作用に注意しながら使用すれば相当の効果を生みます。また、痒みのある患者さんには、痒み止めとしての抗ヒスタミン剤や抗アレルギー剤が有効です。
さらに光線療法として紫外線を用いることができます。光線療法にはオクソラレンという光増感剤を用いながら長波長紫外線であるUVA(ユーブイエー)を用いる方法と、単独で使用可能な中波長紫外線であるUVB(ユーブイビー)を用いる方法があります。最近は、中波長紫外線の中でも311nm(ナノメートル)付近の波長だけを照射することができるNB-UVB(ナロウバンドユーブイビー)という装置があります。これにより紫外線の持つ有害作用をできるだけ少なくしつつ、有効波長を効果的に照射することができるようになりました。もちろん無害ではありませんので、慎重に選択し、患者さん個人ごとに照射エネルギーを設定して行っています。
最後に、今年から、重症の乾癬患者さんへの注射療法として、乾癬の病態に深く関わっている炎症性サイトカインであるTNF-α(ティーエヌエフアルファ)を抑制する生物学的製剤であるインフリキシマブやアダリムマブが使用可能になりました。これらは高い効果が期待できる反面、副作用にも十分な注意が必要で、制約も多い製剤です。そのため現在のところ、治療を受けることができる施設は大学病院や地域の基幹病院などに限られています。しかし、今までかなり難治な経過をたどっている患者さんには福音になると思われます。
乾癬患者さんは長い期間にわたってひとつの疾患と向き合っています。日々の手当てには時間もかかるし根気も必要です。それらの体と心の負担が、診療所に通院して少しでも軽くなるような診療を心がけたいと思っています。