今回は皮膚科外来患者さんの中で、比較的多い脂漏性皮膚炎(しろうせいひふえん)について解説します。
[分類]
脂漏性皮膚炎は以下のように2型に分類されています。
1)新生児〜乳児脂漏性皮膚炎(2〜12週の乳児)
生後まもなくから発症します。 被髪境界部位に厚い痂皮(かひ=かさぶた)様鱗屑(りんせつ=乳痂とも言います)を伴います。2)成人期脂漏性皮膚炎(思春期以降40歳までに多い)
前額部、眉毛部に黄白色の痂皮を伴う毛孔一致性の丘疹を認めます。
被髪境界部と顔面に粃糠様鱗屑(ひこうようりんせつ=細かいふけ)と紅斑を生じます。
胸骨部や肩甲骨部に落屑性紅斑局面を生じます。
耳介後部や腋窩などの間擦多汗部位に湿潤性(しつじゅんせい=湿った)紅斑局面を認めます。
そう痒は軽度で、dandruff(ふけ症)が前駆(その前の)症状のことがあります。
[疫学]
上記の脂漏性皮膚炎は、どの年齢層でも男性の方が女性よりも多く発症する傾向にあります。毛包に付属している脂肪の腺(皮脂腺)の活動性に一致して発症率が高まり、女性では50歳頃から発症率が急速に低下しますが、男性では70歳頃まで皮脂腺の活動が活発で有症者が多く認められます。
[病因と病態生理]
なぜ、脂漏性皮膚炎になるかは諸説があります。一つの原因だけでは説明できないことが多いですが、以下に代表的な説を紹介します。
1)感染説
病巣部から好脂性の酵母様真菌(しんきん=カビ)であるMalassezia furfur (マラッセチアファーファー)が検出されたり、血清中にその抗体価の上昇を認めたり、頭部からそのカビの検出が健常人よりも多く認められる、などの理由から、このカビの起こす炎症が疾患を発症させることに深く関与していると推測されています。
2)皮脂分泌異常説
紅斑やふけなどの皮疹は、もともと脂漏が多い部位(頭皮や顔面など)に好発しますが、その部位での皮脂の量が極端に多いとは言われておらず、分泌される皮脂の質の異常や、皮脂の排出と発汗のバランスが悪いことなどが関与していると推測されています。
3)皮表pHの関与説
皮表膜がアルカリ性だと発症しやすいと考えられています。皮膚は皮表脂質によって包まれており、通常、酸性(pH3.0〜7.0)に傾いています。これを酸外套(さんがいとう)といいます。脂漏性皮膚炎の好発部位は皮表pHが高い(=アルカリ性)部位です。汗の蒸散が妨げられると皮膚の表面はアルカリ性に傾き、このアルカリ状態でマラッセチアファーファーを含む微生物の増殖が高まるといわれています。
4)ビタミン代謝異常説
ビタミンB群(B1、B2、B6、B12、Hなど)の低下が報告されています。動物実験でビタミンB6欠乏状態を作ることにより、脂漏性皮膚炎に似た皮膚症状を誘発できるといわれています。
5)環境因子説
過度のストレス、神経学的異常、情動の不安定、機械的刺激、低温度、低湿度などにより、脂漏性皮膚炎が悪化するといわれています。
6)他疾患との合併による発症
ビタミンB2欠乏症、糖尿病、高血圧症、肝機能異常などに合併しやすいといわれています。また特に欧米ではAIDS(後天性免疫不全症候群)の患者さんに脂漏性皮膚炎の合併が多いことが報告されています。
[治療]
脂漏性皮膚炎の型によって治療が異なります。
1)新生児〜乳児脂漏性皮膚炎(2〜12週の乳児)
通常、ステロイド外用薬に良好に反応します。痂皮が厚い場合は亜鉛華軟膏を厚く外用し、オリーブオイルを塗布して痂皮を除去します。治療中止後に再燃することをしばしば経験しますが、一般的に短期間で治癒します。
2)成人期脂漏性皮膚炎(思春期以降40歳までに多い)
一般的に、被髪頭部にはステロイド含有ローションを、顔面を含む他の部位にはステロイド軟膏を使用します。比較的治療に良好に反応しますが、基本的に慢性かつ再発性に経過します。そのため、ステロイド外用剤で軽快しても、中止後に再発しやすい傾向にあります。
抗真菌薬(カビを抑える薬)含有ローション(ケトコナゾール含有ニゾラールローションR)やクリーム(ニゾラールクリームR)などは改善までの日数は長くかかりますが、中止後の再発までの日数も長い傾向にあります。ミコナゾールやイミダゾールなどの抗真菌薬の外用も有効ですが、日本では保険適用されている外用剤はありません。(ミコナゾールを含有しているシャンプーやリンスは購入することができます。)
洗髪を適度に行い、弱酸性低刺激性石鹸を使用することを推奨しています。