1) 爪の水虫とは
爪の水虫のことを学名では爪白癬(つめはくせん)といいます。原因は白癬菌という真菌(しんきん=カビ)です。白癬菌は皮膚や爪や毛などのケラチンという蛋白が豊富な組織を好んで寄生します。足の爪の水虫は、自分の足の水虫の部分から連続的に白癬菌が爪の中に侵入して感染するといわれています。一方、手の爪の場合は、手指で足の水虫や体の水虫の部分を掻くことによってそれらの部の白癬菌が手の爪の表面の傷口から爪の中に侵入して感染するといわれています。
2)爪の水虫の症状
白癬菌が感染した爪は、まず爪の色が白くなったり黄色になったりし、部分的に不透明になります。最初のうちは爪の表面には光沢(つや)がありますが、次第に爪が厚くぼろぼろになり、つやも失われてゆきます。さらに進行すると爪の色が褐色調を帯びたり、爪の下の皮膚(爪床)から剥がれる爪甲剥離(そうこうはくり)という状態にも進展します。
3)爪の水虫の診断
診断のためには爪の中にいる白癬菌を顕微鏡で観察することが必要です。爪が白く変色したり、爪甲剥離を起こしたりする他の疾患もあるからです。病変部の爪の一部を爪切りやニッパなどで切り取り、水酸化カリウム液(KOH=苛性カリともいいます)で溶かしてから顕微鏡で観察します。白癬菌のいる爪の部分を上手く採取できれば、爪の角層の中に白癬菌の太い菌糸や分節胞子を確認することができます。
4)爪の水虫の治療
爪の水虫の中でも、表在性白色爪真菌症といわれる爪の表層のみに白癬菌が限局しているタイプや、爪甲下爪真菌症といわれるものでもそのごく初期のものでは、病変部を削り取ったのちに外用抗真菌薬を使用して治癒に導くことも可能であるといわれています。しかし一般的には、趾間型や小水疱型などの足白癬とは異なり、爪の水虫の場合は外用療法では白癬菌が存在する部位まで薬剤が十分な濃度で行き渡らないために、完治を目指す場合には抗真菌薬の内服療法が必要です。現在一般に用いられている経口抗真菌薬はイトラコナゾール、テルビナフィンの2種類です。以前はグリセオフルビンを用いていましたが、この薬剤は皮膚や爪における貯留性が低く、治療期間が長くかかる割に治療中止後の再発も早いため、最近はあまり用いられなくなりました。
5)イトラコナゾールについて
アゾール系の中のトリアゾール系という抗真菌薬の仲間の内服薬です。真菌(カビ)の細胞膜の構成要素であるエルゴステロールは、真菌体内でチトクロームP−450という酵素の助けを借りて生合成されています。イトラコナゾールは真菌のチトクロームP−450の働きを阻害することにより抗真菌効果を発揮します。複数回に分けて内服するよりも、内服回数を減らして1回に内服する薬剤の量を増やした方が有効率が高いことが証明されているお薬です。そのため、パルス療法という内服方法が保険適用になっています。実際には400r/日のイトラコナゾールを1週間内服して、その後3週間休薬するという治療を3回繰り返す方法です。薬剤は1カプセルが50rですので、朝食直後と夕食直後に4カプセルずつのイトラコナゾールを服用します。脂肪親和性が高いお薬なために、食事直後に服用すると吸収率が高まりますので、食事直後の服用をお勧めします。使用上の注意点としてピモジド(オーラップR)を含む13種類以上のお薬との併用が禁止されています。これはヒトの肝臓内のチトクロームP−450もイトラコナゾールにより阻害されるため、チトクロームP−450で代謝されるはずの種々の薬物が代謝されず、高濃度に体内に残って危険だからです。その点を守れば副作用が少ない薬剤です。重篤な肝臓障害などは起きにくい薬剤ですが、初回の服用前には肝機能検査を受けておくことをお勧めします。かなりの臨床効果が期待され、3回のパルス療法後1年後までの間に爪が透明になり正常化します。しかし残念ながら、爪の水虫のすべてに有効なわけではなく、有効率は70〜80%程度と考えた方がよいでしょう。
6)テルビナフィンについて
アリルアミン系(非アゾール系)の抗真菌薬です。真菌の細胞膜のエルゴステロールの合成過程のスクアレンからスクアレンエポキシドへの化学反応を阻害して殺真菌効果を発揮します。皮膚や爪への移行性(内服後にそれらの部位に薬剤が到達すること)が非常に良いことが確認されているお薬です。 1錠(125r)/日の経口投与を通常6ヶ月間継続します。こちらのお薬はパルス療法よりも連日投与の方が有効率が高いことがしられています。また有効率はお薬の総投与量に依存することも確認されています。重篤な副作用として肝機能障害や血液障害(白血球数の低下や血小板の低下)が報告されていますので、治療ガイドラインに従って内服開始前の肝機能検査、血液検査などが必要です。また、6ヶ月間の内服中にも定期的な肝機能検査、血液検査が必須です。皮膚に紅斑や水疱などが薬疹として発生することもありますので、内服中は皮膚を観察するのを習慣とするとよいでしょう。なお、併用してはいけない薬剤のリスト(シメチジン、リファンピシンなど)もありますので、処方を受ける時には皮膚科医によく相談しましょう。やはり残念ながら、爪の水虫のすべてに有効なわけではなく、有効率は70〜80%程度と考えた方がよいでしょう。
爪の水虫に罹患した場合には、根気よく治療しましょう。